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仙台高等裁判所 昭和36年(ネ)339号 判決 1961年11月20日

控訴人 大竹雄助 外一名

被控訴人 福島県信用保証協会

主文

原判決をつぎのとおり変更する。

控訴人有限会社大丸印刷所は、被控訴人に対し原判決添付目録記載の建物につき福島地方法務局若松支局昭和三六年三月二八日受付第二、四九八号をもつてなした所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

被控訴人の控訴人大竹に対する訴を却下する。

第一、二審の訴訟費用は被控訴人と控訴人大竹との間においては被控訴人の負担とし、被控訴人と控訴人有限会社大丸印刷所との間においては、被控訴人について生じた費用を二分しその一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人有限会社大丸印刷所の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、次のとおり付加訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるからこゝにこれを引用する。控訴代理人は、原判決二枚目裏一一行目「請求原因事実は認める」とあるのを「請求原因一項ないし三項記載の事実は認める。同四項記載の主張は争う」と訂正する。被控訴人の本件建物に対する強制競売の申立の登記がなされたのは、控訴人らのなした仮登記の後であるから、控訴人らは強制競売の申立の登記の後といえども右仮登記を売買による所有権移転の本登記にすることができる。しかして本登記は仮登記の当時に遡つてその効力を生じ、控訴会社は被控訴人に対し完全に自己の取得した所有権を主張することができるのである。

従つて本件の被控訴人のなした強制競売の申立の登記は取り消されるべきものであつて、該登記は登記上利害の関係を有する第三者の登記とは言い得ない。本件は特に抹消により移転する関係ではなく、不動産登記法上認められた本登記であるから、被控訴人の請求は失当であると述べ、被控訴人は控訴人らの右主張事実中本件強制競売の申立の登記は取り消されるべきもので、登記上利害の関係を有する第三者の登記とは言い得ないとの点は争うが、その他は争わないと述べた。

理由

本件建物はもと控訴人大竹の所有であつたところ、右建物につき福島地方法務局若松支局昭和三四年四月一日受付第二六三九号をもつて控訴会社を仮登記権利者として同年一月二〇日の売買予約を原因とする所有権移転の仮登記がなされ、ついでこれに基き同支局昭和三六年三月二八日受付第二、四九八号をもつて、昭和三四年九月一日の売買を原因とする所有権移転の本登記がなされたが、その以前被控訴人が控訴人大竹に対して有する債権に基ずき右建物につき強制競売の申立をなし、福島地方裁判所会津若松支部において昭和三六年三月二日強制競売開始決定がなされ、その嘱託により右仮登記以後本登記以前の同年三月三日に右強制競売の申立記入の登記がなされたことは当事者間に争いがない。

不動産登記法(昭和三五年法律第一四号による改正)第一〇五条第一項第一四六条第一項によれば、所有権に関する仮登記を本登記にする場合登記上利害の関係を有する第三者があるときは、申請書にその承諾書又はこれに対抗することを得べき裁判の謄本を添付することを要することが明らかに定められている。しかして同法第七条第二項には、本登記の順位は仮登記の順位によるものと定められているのであるから、仮登記に基ずき所有権移転の本登記がなされれば、仮登記権利者はあたかも仮登記の当時に既に本登記がなされたのと同一であるとしてその所有権移転の効果をもつて第三者に対抗することができるのである。従つて仮登記の後に、仮登記義務者に対する債権者の申立によつて強制競売開始決定がなされ、強制競売の申立の登記がなされても、ついで右仮登記に基ずいて本登記がなされれば、その時から仮登記義務者の右競売目的物件に対する所有権は否定され、右債権者の申立による競売手続は続行を許されないものとして取り消さるべきものとなる(民訴法第六五三条)。そうだとすれば右債権者が前記の登記上利害の関係を有する第三者に該当することは明らかであり、従つて右本登記申請の場合申請書に右債権者の承諾書又はこれに対抗することを得べき裁判の謄本を添付すべく、登記官吏がその添付のないのに拘らず誤つてこれを受理し、本登記手続を完了したとすればその結果は右のように債権者に不測の事態を生じ、ひいては債権者に不当の損害を帰せしめる虞れも考えられるので、右本登記手続は無効といわなければならない。

しからば、本件において被控訴人はまさに右登記上利害の関係を有する第三者であるというべきであるのに、控訴人らが本件本登記申請をなした際被控訴人の承諾書又はこれに対抗することを得べき裁判の謄本を添付せず、前記支局の当該登記官吏もこれを看過して受理し、登記をなすに至つたものであることは控訴人らの明らかに争わないところである。従つて右本登記は無効であり、抹消されるべきものである。

控訴人らは、右は登記事務処理上の違法にすぎず、当該登記官吏ないしは右支局に対しその責任を追求すべきであつて、控訴人には右抹消の義務がないと主張するが、登記機関に対する公法上の責任の追求と登記関係者に対する登記抹消の請求とは異るから、右主張は理由がない。

しかし前示本登記の抹消登記手続においては、右本登記の登記名義人である控訴会社のみが登記義務者であり、同控訴人に対する本訴請求は理由があり認容すべきも、控訴人大竹は登記義務者ではないから、同控訴人に対する本件訴はその主張自体から当事者適格を欠くものとして不適法であり、却下せらるべきである。

以上のとおりであるから原判決主文の記載を右のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民訴法第九六条第八九条第九二条により主文のとおり判決する。

(裁判官 村上武 上野正秋 新田圭一)

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